バリアフリーeスポーツ事業を展開するePARAが“誰もが輝ける社会を創る”
本気で遊べば、明日は変わる
eスポーツ※の世界市場は、すでに1000億円を突破しているといわれ、日本でも70億円に迫ろうかという勢いで急成長を遂げています。このeスポーツに障がいの有無に関係なく参加できる「バリアフリーeスポーツ」を積極的に事業展開している、株式会社ePARA 代表 加藤大貴さんと、全盲のeスポーツプレイヤーで社員の北村直也さんにお話を伺いました。
※eスポーツ:エレクトロニック・スポーツの略。
コンピューターゲームやビデオゲームで対戦することをスポーツと捉えた名称。
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株式会社ePARA代表取締役
加藤 大貴 さん -
株式会社ePARA社員
北村 直也 さん
ePARAでは、障がい者のeスポーツ事業として、さまざまな大会・イベントを開催していますね
加藤さん 2019年に第1回目のeスポーツイベント「ePARA 2019」を開催しました。この時はまだコロナ前でしたので、オフライン(現地)で開催し、全国からスタッフを含めて80名ほどの参加がありました。その後はコロナ禍となり、オンラインで20・21年とイベントを開催。先日の22年5月のイベントはちょうどコロナ感染者がやや減少したので、2年半ぶりにオフラインで開催できました。
年々参加チーム・人数ともに増えて、規模が大きくなっていると感じています。テレビ局やネットニュースからの取材も増えており、最近では海外メディアから4ヶ国語(英語・フランス語・スペイン語・ポルトガル語)に翻訳された取材もありました。記事の掲載後には海外の企業からもスポンサーへの問い合わせがあったりして、反響が大きかったですね。
障がい者がeスポーツに参加するイベントを企画した経緯を教えてください
ePARA2019
加藤さん もともと僕は国家公務員(裁判所書記官)で、特に障がい者との接点はありませんでした。当時、僕の祖母がアルコール依存症と認知症で施設に入っていたのですが、しょっちゅう問題を起こしては両親に呼び出しがあって、とても困っていたのです。そんな時、裁判所の仲間が「成年後見制度を利用したら?」と教えてくれました。僕は長年法律を勉強していたのに、この制度について知らなかったので、それなら他の人もきっと知らないだろう、もっと世間に知らせたいと思い、勉強のため社会福祉協議会に転職しました。
そこで障がい者の方と触れ合うことになったのですが、今まで障がい者の方とちゃんと会話をしたことがなかったので、何に困っているのか、どんなアニメが好きなのか、どんな恋愛をしているかなんて、全く知らなかった。自分とは違う世界、違うコミュニティだと思って勝手に線引きしていた気がしました。でも、そこでゲームの話をしたらものすごく盛り上がって、実際にゲームをしてみたらみんなすごく強くて。そこに尊敬というか、敬意の念を抱いたのです。ゲームというコミュニケーションが、僕たち人間同士を近いところへ導いてくれた。まさにそんな感じでした。
そこからePARAという会社を立ち上げて、北村さんをはじめとする障がい当事者の方にも参加いただいて、今に至っています。
どんな障がい当事者の方がeスポーツに参加しているのですか
11人の車椅子サッカーチーム
「ePARA ユナイテッド」
加藤さん 北村さんのように全盲の方や、聴覚障がい、筋ジストロフィー、上肢障がい、下肢障がい、精神障がいなど、いろんな方がいます。それぞれ装具を工夫したり、不自由な視覚・聴覚を補えるよう各自工夫をこらしてゲームをしています。
障がい者の方へのサポートとしては、動画配信に字幕を表示したり、イベント会場まで移動支援者を手配するなどして、eスポーツを楽しんでいただくための環境整備を行っています。
北村さんは全盲だそうですが、画面が見えない中で、どのようにプレイするのですか?
プレイ中の北村さん
北村さん ゲーム内の音ですね。ゲーム内には効果音とか、あと格闘ゲームではキャラクターが技を出す時に声を発するので、その音でどんな技が出たかとか、攻撃が当たったのか、ガードされたのか、相手がジャンプしたのかというような状況を把握して、じゃあ次はこうしたらいいと判断して立ち回りをしています。
加藤さん 北村さんは強いですよ。僕はコテンパンにされています(笑)
北村さん 私はリアルスポーツがそんなに得意ではないので…でも、eスポーツなら全力を出して戦える。そこがeスポーツの面白みだと思っています。全力を出すことによってドラマチックな展開も生まれますし、必死で戦えば勝っても負けても見ている人を感動させることができる。人との繋がりも広がりますし、コミュニケーション的な面白さがeスポーツの魅力だと思います。
ePARAのイベントに参加された方からは、どんな声が届いていますか
加藤さん 「人生が変わりました」って言われるのが嬉しいですね。ePARAでは障がい者の就労支援もしていて、むしろそちらの話なのですが、eスポーツを通じて企業側にウェブ制作や音楽制作のスキル、ライティング力などを見せることができて、結果、自分の輝ける場所への就労に繋がったというケースがいくつもあります。今までは思うような仕事に就けなかった人でも、いい縁に巡り合えて、本当に好きなことを仕事にできたと。「毎日充実してます!」みたいな感じで輝いていて、そういう声が聞かれるのはすごく嬉しいなと思いますね。
北村さん 就労支援という意味では、視覚障がいって本当に職域が狭くて、他にやりたいことがあっても「マッサージを勉強しておけ」って言われることが多いんです。だから、たとえばコンピューターが得意とか、数字に強くてExcelが得意とか、そういう人が適切なところに就職できるように、ePARAとしてサポートしていきたいと思います。
今後はどんなことを実現していきたいですか
加藤さん 僕たちは、障がい者の活躍支援に絡むことだったらなんでもやりたい。だからゲームイベントもやるし、就労支援もやるし、業務発注事業も、いろんなことをやっていきます。たとえば、今はもの作りにもチャレンジしていて、大学や脳波計のメーカーさんと一緒に、障がい者が自分の健康状態や脳波を把握できて、それをエンタメやeスポーツに使えるようなデバイスを開発しているところです。
eスポーツについては、世界ではむしろ日本が遅れているところなので、我々も世界に飛び出していくことを狙っています。バリアフリーの色をさらに打ち出して、バリアフリーeスポーツを世界に広げていく旗振り役を我々がやりたいと思っています。
インターネットを利用するeスポーツは、時間と場所の制約を越えて、国境も越えて交流ができる、すごい力強さをもっています。「本気で遊べば、明日は変わる」というePARAの理念通り、eスポーツに関連する業務に打ち込み、のめり込み、自分の人生を切り拓くんだという強い気持ちで、これからも会社を面白くしていきたいと思います。
プロフィール
加藤 大貴 さん
1981年生まれ。NPO法人市民後見支援協会理事。裁判所書記官、(社福)品川区社会福祉協議会勤務を経て、2020年に株式会社ePARAを設立。バリアフリーeスポーツ事業推進の他、障がい者の就労支援にも力を入れている。好きなゲームは雀魂(じゃんたま)。毎朝5時半に起きて1戦こなし、ツイッターに上げるのが日課。
北村 直也 さん
1993年生まれ。先天性の全盲。小さな頃からコンピューターやゲームに親しみ、卒業後は大手IT系企業でSEとして勤務。その後、声優・ナレーターなど声の仕事と、脚本・ライター業に従事。2021年にePARA入社。好きなゲームはRPG。今後やりたいゲームは恋愛ゲーム!