当事者の視点から防災に役立つ情報や実践的な知識を提供
能登半島地震や各地の豪雨災害など今年も多くの災害が起こり、南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)も発表された中で、防災対策に取り組むヘルスケア関連団体も増えています。
そこで、今号のトピックスでは、「難病カフェアミーゴ」が発行した『難病患者のための防災ガイドブック』を取り上げました。
難病カフェアミーゴは、茨城県で活動する患者団体リーダーが立ち上げた交流組織で、同ガイドブックには、難病当事者の視点から、実際に役立つ具体的な情報や知っておきたい知識などが記載されています。『難病患者のための防災ガイドブック』(以下、ガイドブック)発行の経緯や改訂の背景、そして難病患者の防災について伝えたいことなど、難病カフェアミーゴ代表の桑野あゆみさんのお話をご紹介します。
発行のきっかけは、多様な疾患の団体リーダーの交流
難病カフェアミーゴは、茨城県の患者団体の役員として出会ったメンバーが、疾患の違いを越えて難病患者や家族が気軽に集える場をつくろうと2016年に立ち上げました。アミーゴとはスペイン語やポルトガル語で〝友人、味方〞という意味で、気楽に交流して悩みや課題を共有することを目的としています。
意見交換をする中で、難病患者の防災についてガイドブックや手引きがないことがわかりました。そこで、自分たちで作ろうということになったのがガイドブック作成のきっかけです。
宮城県出身でもともと防災に関心があった私は、防災介助士や防災士という専門職があることも知り、これらの資格取得も目指しつつ、ガイドブック作成に取り組みました。
2020年7月に発行したガイドブックの初版では、2011年の東日本大震災で被災された難病患者の事例を多く取り上げ、日頃の備えや被災時の行動について多くの気づきと学びが得られるように構成しました。
2021年には内閣官房の「国土強靭化民間の取組事例集」に掲載され、難病患者さんだけでなく、障がい者や介助職の方からも問い合わせがあるなど、大きな反響がありました。
当事者の視点を重視して、役立つ情報や知識を盛り込む
その後も、各地で規模の大きな豪雨災害などが続いたことから防災対策の見直しが必要と考え、難病当事者の安全を確保しながら、良好な療養環境を維持することを目的とした改訂版VOL.2を発行することになりました。
一般的な被災・減災に関連する情報については、防災介助士、防災士としての知識も活かしながら私が担当しました。また、職業専門性をもつ難病当事者、医療従事者、地域防災活動団体などさまざまな立場の方に執筆を依頼して役立つ情報を加えました。当事者の声は「難病アミーゴに聞いてみた!」とコラムにするなど、読みやすく工夫したのも特徴です。
改訂版の発行後に、能登半島地震が起き、各地で豪雨災害も起きています。一方でモバイルファーマシー(薬局機能を備えた災害対策医薬品供給車両)やフェーズフリー(日常時と非常時のフェーズ(境界)をなくすという考え方)をはじめ、防災に向けた新しい取り組みも広まってきました。
そこで、最新情報を共有するためにも更なる改訂が必要と考え、充実したコラムなどの読み物はそのままに、VOL.2発行から1年が経った2024年9月30日に『難病患者のための防災ガイドブックVOL.2改』を発行しました。改訂版は、難病カフェアミーゴのブログやホームぺージ「なんびょうステーションAmigo」からダウンロードできるようになっています。また当事者団体や行政などからの依頼があれば、ガイドブックをテキストとした講演や勉強会も行っていきたいと考えています。
『難病患者のための防災ガイドブック』の特徴
●災害時避難行動要支援者名簿、ハザードマップなど、災害に関する用語をわかりやすく説明
●実際に発令された際の避難のめやすとなるよう注意報や警報の種類を解説
●知っておきたい知識や当事者の体験をコラムとして、読みやすく紹介
●お薬手帳や薬剤保管、難病患者の必需品など、当事者に役立つ情報を掲載
●緊急用ヘルプマークや指さし表など、災害時に役立つツールも提供
『難病患者のための防災ガイドブックvol.2改』は、左の二次元コードから、ダウンロードできます。 |
自分で自分を守り、必要な助けを求める気持ちを大切に
難病患者といっても、病気の種類や症状によって状況はさまざまですし、必要な防災対策も異なります。各自でガイドブックに必要なことを書き込み、時々目を通し、備品や災害発生時の行動を自分で確認して活用してほしいと思います。難病患者にとって、常用する薬の備えも重要です。毎日薬を服用しなくても、しばらくはしのげるという場合に、災害時には服用を諦める人も多いようです。しかし、薬の服用をやめると病状がリバウンドすることもありますから、薬の備え方について主治医に相談してみてください。
また、難病や慢性疾患の場合は、外見上は当事者ということがわかりにくく、災害時の避難所などではつらい思いをすることもあるようです。手伝ってほしいと言われても手伝えない場合もありますし、役立てないことを申し訳なく感じることもあるでしょう。でも、そうした現実を受け入れる、「傷つく勇気」をもっていた方がいいのかなと思います。そもそも多様な被害に遭った人が集まる避難所では、家や家族を失くすなど重大な被害に遭った人と比べて、自分は被害が軽いから、まだ恵まれているから我慢すべきと考える人も少なくないようです。しかし、諦めたり遠慮しすぎたりしないで、難病当事者として自分のことは自分で守ろうという気持ち、必要な助けを求める気持ちはもっていてほしいのです。「災害をよく知り、正しく恐れてほしい」との思いを込め、私たち〝アミーゴ〞らしい楽しさも交えながら、災害への備えの必要性を正しく伝えていきたいと考えています。
桑野 あゆみ さん プロフィール
宮城県仙台市出身。難病カフェアミーゴ代表、MSいばらき会長。防災士・防災介助士として難病カフェアミーゴ発行の『難病患者のための防災ガイドブック』制作に携わる。2020年7月1日『難病患者のための防災ガイドブック』初版発行(2021年7月1日改)。
2021年4月内閣官房国土強靭化推進室「国土強靭化民間の取組事例集」掲載。2023年9月30日『難病患者のための防災ガイドブックvol.2』、2024年9月30日『難病患者のための防災ガイドブックvol.2改』発行。