CLOSE

このサイトは、ファイザー株式会社が社会貢献活動として発行しております『まねきねこ』の情報誌のウェブ版です。
まねきねこの郵送、もしくは郵送停止はこちらからご連絡ください。
なお、個別の疾患の相談は受け付けておりません。

お問い合わせはこちら

※メーラーが起動します。

対談 第1回 話したい・伝えたい・知ってほしい・私たちの歩み

対談 第1回話したい・伝えたい・知ってほしい・私たちの歩み

『まねきねこ』では、2002年からヘルスケア関連団体の活動やネットワークの広がりをご紹介してきました。その中でも特に広く知ってほしい取り組みや伝えていきたいテーマについて、深くかかわってきた方々に話し合っていただくのが、この対談企画です。初回は、東日本大震災をはじめ、度重なる地震災害や豪雨災害の中で注目される当事者の防災や災害時の連携について話し合っていただきました。

東日本大震災や熊本地震で当事者が直面した課題
能登半島地震が起き、宮崎地震に続いて南海トラフ地震臨時情報が発表される中で、改めて当事者の防災や災害支援が注目されています。そこで、今まで多くの活動に取り組んでこられたお二人に、当事者の災害支援における課題や、団体の連携についてお伺いしたいと思います。まず、東日本大震災(2011年)での支援活動やその後の展開などについてお聞かせください。

阿部さん
非常に大きな災害でしたが、仙台市は宮城県沖地震への備えとして、東日本大震災以前から多くの団体が連携して防災や減災対策に取り組んでおり、また、災害に対する市民の関心も高く、それが震災時に役立った面があります。2015年に仙台市で国連防災世界会議が行われ、その後の防災減災計画には、当事者や女性、生活者の視点が取り入れられるようになったことも意義があると思います。その反面、知的障がい者の団体などから「避難所に受け入れてもらえなかった」「福祉避難所が開設されなかった」という話も聞きました。大震災以降、被災者支援では改善されてきた面もありますが、集団生活に困難な発達障がい者、知的障がい者、精神障がい者などへの支援では、解決していない問題も多く、地域による格差も大きいと感じます。

増田さん
避難所については課題が目立ちましたね。その後の熊本地震(2016年)などでも障がい者や高齢者が安心して避難できる場所にはなっていなかったと感じています。
一方で、東北の被災地に支援に入ったときに、阿部さんをはじめVHO-netなどで面識のある方たちと再会できたことが心強く、また現地の状況を詳しく聞いて支援に活かすことができ、日頃の交流が重要だと強く思いました。

VHO-netの連携が非常に役立ちましたね。精神障がい者の支援についてはいかがでしたか。

増田さん
福島県では原発事故の影響で多くの精神科病院が閉院し、行き場のなくなった患者さんを、専門職や支援者が連携して地域で受け入れる取り組みが行われました。相馬地域では、「相馬広域こころのケアセンターなごみ」が中心となって、電話相談や訪問に対応し、地域の医療関係者と連携して機能しています。こうした地域で当事者を支える実践が広がることは期待したいですね。

阿部さん
平時でもさまざまな支援によってなんとか生活ができているという障がい者が多い中で、災害が起こると生活が破綻する場合も少なくありません。まして障害福祉サービスを受けていない人、当事者団体などとつながっていない人は、とても困難な状況に陥ります。東日本大震災や熊本地震を経て、一般的な課題については改善されてきましたが、障がいがあっての困難は解決されていないと思います。

当事者の安心は、多くの人の安心につながる
能登半島地震での災害支援についても教えてください。

阿部さん
日本障害フォーラム(JDF)では、発災直後から支援活動を行い、5月に「JDF能登半島地震支援センター」を開設しました。地域連携や情報共有を重視して、地元の団体などと毎月会議を開催し、政府や関係機関に支援に関する要望として発信しています。

増田さん
交通アクセスが悪く、高齢化率が高い地域です。発災後7ヶ月を経ても被災地の状況があまり変わっておらず、今までの災害とは異なる困難さがあるように感じます。一方で、他地域の当事者団体から支援に参加したいという申し出もありました。障がいがあるからこそ、同じように困難を抱える人たちを理解し適切な支援が行える面もあり、こうしたことからも避難計画への当事者の参画が重要だと思います。

被災家具の搬出をしているJDFの支援員(写真提供:JDF能登半島地震支援センター)

被災家具の搬出をしているJDFの支援員(写真提供:JDF能登半島地震支援センター)

北陸地方は、交通の不便さや人口減少、高齢化などの問題から、当事者団体の活動も活性化しにくい印象があります。日頃から活動していないと、当然ながら、災害時の連携も難しいですね。では、最後に当事者の防災や団体連携について、感じていることをお聞かせください。

阿部さん
当事者も防災訓練などにも積極的に参加して、障がいの多様性の理解を広め、地域での連携を深めてほしいと思います。地方などでは、障害者権利条約の「権利」という言葉に過剰に反応する人もいます。私たちは特別な権利ではなく当たり前のことを望んでいること、合理的配慮によって障がいによるさまざまな不便や困難を解消することは、超高齢化社会の中で誰もが暮らしやすい地域社会につながるということの理解を広めていきたいですね。

増田さん
日本の障害者制度は、障がいは個人の心身機能にあるとする医学モデルですが、障害者権利条約では環境や社会に障壁があるとする社会モデルで考えられるようになっています。医学モデルでは障がい者に分類されず、障害福祉サービスが受けられないグレーゾーンの人たちが多数存在しており、災害時にはその人たちはさらなる困難に直面します。障がいのある人たちが安心して生きられる防災の仕組みができれば、グレーゾーンの人も一般の人も生きやすくなるはず。基本的な考え方を医学モデルから社会モデルに転換するように、国がリーダーシップをとり、メディアも報道してほしいですし、私たちも主張していく必要があると思います。

日本では、まだダイバーシティの考え方がそれほど浸透しておらず、災害時に余裕がないことも理解できますが、難病や障がいのある方々への配慮が少しでもあればと思います。法律や制度の問題も大きいですが、国民の意識が変わることが必要ですね。当事者の声を防災や災害支援活動に活かしていくためにも、地域でのヘルスケア関連団体の活動やネットワークづくりがキーワードになると改めて感じました。

※ダイバーシティ:「多様性」を意味し、性別、人種、国籍、宗教、障がいの有無など異なる背景や価値観をもつ人々が共存し、互いに尊重し合うこと。