ファイザープログラム
ファイザープログラムは、①ヘルスケアの領域で今後一層の活躍が見込まれる市民活動を発掘し、その活動を後押しすること、②これからの社会の担い手として重要な役割が期待される市民活動自体の社会的認知を高めること、を目的に2000年に創設されました。主な特徴としては、ヘルスケアを広く捉え、ヘルスケアの分野で活動する市民団体を支援対象としていることや、公的機関からのサービスや社会資源が十分に整っていない分野における市民活動とともに、市民研究も重点的に支援していること、プロジェクトの独創性・試行性に評価の重点を置いていること、人件費や事務所家賃・光熱費などの事務局経費も前向きに助成すること、中間時点でのインタビュー実施によるフォローアップを行っていること、市民活動・市民研究の社会的認知の向上を目的とした広報活動も重視していることなどが挙げられます。今回は、「ファイザープログラム」について、簡単に解説いたします。
プログラムの趣旨
ヘルスケアを重視した社会の実現に向けて、「心とからだのヘルスケア」の領域で活躍する市民団体や患者団体・障がい者団体による、「健やかなコミュニティづくり」の試みを支援することを目的としています。
ここでの「ヘルスケア」とは、保健・医療・福祉・生活のみならず、就労等の社会参加活動も含めて一体として捉え、一人ひとりの多様な生き方を支え、心豊かな社会を実現する取り組みを意味しています。また、「コミュニティ」とは、特定の地域社会はもちろんのこと、共通の思いや立場による人々の集まりも含めて考えています。
助成対象プロジェクトの重点課題
「プログラムの趣旨」に合っていることはもちろん、次の3点を重点課題としています。
①当事者が主体となって、市民や専門家と協力して進める取り組み
②関係する団体等と連携し、ネットワークを強化し広げる取り組み
③現場の視点から新たな課題を発掘し、その解決を目指す取り組み
以上の重点課題に限らず、新たな発想による独創的で試行性の強い取り組み、市民研究への取り組みも注目しています。
助成対象団体
個人は対象とならず、次の要件を満たした団体に限られます。
①民間の非営利団体であること(法 人格の種類や有無を問わない)
②市民や患者・障がい者が主体的に 参加して活動する団体であること
③日本国内に活動拠点があり、原 則として 2 年以上の活動や研究の 実績があること
④目的や活動内容が特定の政治・ 宗教などに偏っておらず、反社会的 勢力とは一切かかわっていないこと
助成金額
1 件あたり50万円~300万円とし、助成総額(全体)は毎年変わりますが、2024年度は2,500万円を予定しています。
応募した翌年1年間が助成期間となりますが、次年度以降も応募が可能で、最大3回まで受けられる場合があります。
選考について
公募は毎年6月中旬頃にファイザー株式会社のウェブサイトにて行います。2023年度は、新規助成が8件(応募67件)、継続助成が6件(応募7件)選ばれました。これまでに選ばれたプロジェクトについては、ウェブサイトから確認できます。
運営団体
ファイザープログラムは、特定非営利活動法人 市民社会創造ファンドの企画・運営協力のもと、ファイザー株式会社が実施しています。
ファイザープログラムは、ヘルスケアの視点を重視したより良い社会への寄与を目的として、心とからだのヘルスケアの分野で活躍が期待される市民活動・市民研究を応援する助成プログラムです。2000年に創立されて以来、疾病や障がいを抱える方をはじめ、生活困窮者や公的制度の狭間で支援を必要とする人など、従来のヘルスケアの枠では捉えられないような対象者を支援し、また、多くの助成プログラムでは対象とならない人件費や家賃・光熱費等をカバーするなど特色のある取り組みを続けています。
今回は、2019年度に選ばれ、2020年から3年にわたって助成を受けてきた2つのプロジェクトをご紹介します。
※継続助成募集は2023年度で終了
認定NPO法人 ReBit(りびっと)
LGBTQ〝も〞支援できるキャリア支援者を増やしていきたい
近年、「LGBTQ」や「セクシュアルマイノリティ(性的少数者)」という言葉を、新聞やSNSを通して、よく見聞するようになりました。性のあり方は見た目にはわからず、当人から言われるまで、自分の周りの人にはいないと思ってしまうところから、可視化しにくいと指摘されています。さまざまな背景や課題が浮き彫りになる中、ReBitはファイザープログラムに申請し、LGBTQの人たちの求職・就職の困難にフォーカスし、さまざまなプログラムを実施しています。その過程と実績について、理事の中島潤さんにお話を伺いました。
まず、LGBTQの背景、社会的な課題について教えてください
LGBTQは国内で3〜10%いるといわれていますが、見た目にはわからないので、当人がカミングアウトしない限り、周囲の人は意識していません。昨今、それぞれの成長過程で直面する課題が指摘され、子ども・若者期では学校でいじめや暴力を経験しやすい、自死念慮が全国調査においても割合が高いという現状があります。
一方で、現場の教員はLGBTQについて学んだことがないという状況で、十分なサポートがなされていません。ReBitは、LGBTQ“も”含めたすべての人が、ありのままで未来を選べることをビジョンに掲げ、学ぶ、働く、暮らすという各領域で事業を行っています。
なかでも、学校時代を経て、若者期、大人期に入った頃から、求職・就職で困難に遭遇しやすいという指摘があります。困り感を相談したいと思っても、教員など周囲の大人には相談できず、就労支援機関にも相談しなかった人が96%いたという結果が出ています。結果的に職場を離脱せざるをえなくなったり、うつなど精神疾患を経験したりする人が増えている状況です。
ファイザープログラムへの応募の動機、その内容について教えてください
ファイザープログラムに応募し、助成されたテーマは、特に働くうえでの難しさに着目し、その困難をともに考えられる支援者を育成することでした。支援に携わる方々も、LGBTQについて学んだ経験がなく、相談は受けたいが戸惑いや不安があり、結果的に相談にのれない状況になっています。ReBitは、その支援方法を伝えたい。ただ、私たちが直接、サービスを届ける形ではなく、学校であれば、教師がどんな風にインクルーシブな場にしていけるか、企業ではどんな情報があると社内での取り組みが進むのか。資源や知見を提供することで、それぞれのフィールドにいる人たちが行動を起こすきっかけをつくっていきたいと考えました。
ファイザープログラムによって実現できたことや、よかった点を教えてください
2020年から3年継続の助成金支援をいただきました。1年目は、そもそもLGBTQの支援もできるとはどういうことなのか、それを探るために、国家資格であるキャリアコンサルタントの皆さんに向けて、支援者養成プログラムを実施しました。キャリアコンサルタントの基礎知見の上に何が乗るとLGBTQの支援もできるのか、ともに模索しながらプログラムを実施。2年目では、1年目の約4ヶ月の長期プログラムから要素を抽出し、1日の研修で習得できる形にしました。キャリアコンサルタントの更新講習である厚生労働省指定の講座にLGBTQの内容を入れられるように、学習プログラムの開発も行いました。
3年目は、eラーニング教材の開発、また、これまでの学びの内容を『キャリア支援者のためのLGBTQハンドブック』という教材にまとめ、セクシュアリティの基礎知識から、ケース検討、相談時の困りごとや支援者のよくある疑問を紹介する形式で、成果物を製作しました。ハンドブックは特に色使いやデザインにこだわり、親しみやすくするために、デザイナーと何度も検討し、厚めの紙に印刷して、職場の本棚に入れてもらえるような工夫もしました。それらのデザイン費、印刷費、通信費、外部スタッフへの人件費などもファイザープログラムの助成金が使えました。他の助成金では、そこまで許可されないことも多いのですが、社会に啓発する戦略ツールとして認めていただきました。ホームページでも無料公開し、確実に日本国内でLGBTQの支援もできるというキャリア支援者が増えていると思います。
ファイザープログラムの終了後も継続していきたい事業など、今後の展望を教えてください
一つは、ファイザープログラムの中で立ち上げた「LGBTQ個別キャリア相談」です。オンラインで直接、相談を受けるシステムで、就職活動をどう進めるか、精神・発達障がいがある人など、複合的マイノリティの方の相談にも、キャリアコンサルタントや精神保健福祉士などが対応しています。
もう一つは、オンラインプラットフォーム事業です。LGBTQ支援者を希望している方が年々増え、今は約140名の参加者がいます。ReBitのホームページで、ハンドブックをダウンロードした時点で、プラットフォームの情報を伝え、加入の希望を聞く形をとっています。今後は、キャリア支援に限らず、福祉、行政など、多様な人たちが集う場を目指していきたいと思っています。
3年間で総額800万円の助成金をいただきました。中間報告書、完了報告書も、ReBitが取り組む実践のプロセスやその成果を一緒に見ていただいている感覚が強かった。申請が通れば、ただお金が振り込まれるのではなく、ヒアリングがあり、報告書の形式も、どんな計画に基づき、何をしたいのか、そこから導き出された課題や教訓などを書く形式がとられていました。それらを書きながら、来年はこうしたいと、次の計画に反映することができました。着実に自分たちのやりたい方向に向けて歩めているという感覚を確かめながら、助成する団体も評価してくれている。それがとても励みになったと思っています。
認定NPO法人 ReBit
■ 2009年12月 任意団体設立
■ 2011年4月 早稲田大学公認学生団体Re:Bitとなる
■ 2014年 NPO法人ReBit
■ 2018年 認定NPO法人ReBit
■ 2019年 ファイザープログラム新規助成に応募し選定されるプロジェクト名と助成額
プロジェクト名と助成額
● 2020年(1年目) 「LGBTの就労支援を担うコア人材育成
プログラムの開発・実施」助成額250万円
● 2021年(2年目) 「LGBTのキャリア支援を担う人材育成
モデル構築」助成額300万円
● 2022年(3年目)「LGBTのキャリア支援を担う人材育成
モデルの構築」 助成額250万円
公益社団法人 やどかりの里
ソーシャルファームをテーマにヤギとのふれあいやエシカルカフェなど多彩な取り組みを展開
「やどかりの里」は、障がいがあっても自分らしく生きることのできる地域の実現を目指して、さいたま市見沼区を中心に、精神障がいのある人の暮らしの場、働く場、相談の場、憩いの場を創り出してきた団体です。ファイザープログラムの助成を受けたプロジェクトでは「見沼の文化とSDGsを意識した共同創造のソーシャルファームづくり」をテーマに、ヤギとのふれあいや太陽光発電、移動式屋台による地域巡回など、ユニークな市民参加型の取り組みを展開し、助成終了後もエシカルカフェの運営などのより発展した活動へとつなげています。
まず、助成プロジェクトについて教えてください
たちはソーシャルファーム ※1づくりをキーワードに「未来を拓く つなぐ・つくるプロジェクト」と名付けて活動に取り組んできました。
目標に掲げたのは、「必要な支援につながりにくい人と出会い、課題やニーズを共有できるコミュニティづくりを目指すこと」、「食とケアとエネルギーが循環し誰もが安心して暮らせる見沼地域を未来につないでいくこと」、「地域のニーズや資源、人や知恵を活かして、多様な働き方、社会参加を社会的企業により実現すること」、「人と自然の新たな関係や持続可能な暮らしについて考える人を増やしていくこと」です。
具体的には、やどかりテラス(敷地内の緑地)や、さいたま市の緑のトラスト保全地第1号地などを活用した地域巡回イベント「ヤギと自然となかよしに」の開催や、市民電力「みぬま電力」として現・認定NPO法人さいたまユースサポートネットが開催するマルシェへの参加、まちなか保健室や移動式屋台での地域巡回、環境との共生や持続可能な暮らしにつながるソーラーランタンづくりなどを行いました。
※1ソーシャルファーム:自律的な経済活動を行いながら、就労に困難を抱える方が、必要なサポートを受け、他の従業員とともに働いている社会的企業
ソーシャルファームづくり という考え方は、従来の地域支援や就労支援と、どのような違いがあるのでしょうか
地域で望まずして孤立している人たちや多様な働きづらさを抱えた人たちに対して、必要な支援が届いていない現状があると私たちは考えています。従来の支援や現行の医療・福祉制度の中では、出会えない、救えない人たちが地域に存在するということです。
一方で、やどかりの里がある見沼地区にはヤギが人と暮らせるような環境がまだ残っています。ソーシャルファームは、私たちが蓄積してきた支援の経験や資源づくり、構築してきたネットワークを活かしつつ、さらに自然環境と文化環境の調和と継承、新しい社会関係や人間関係、コミュニティを育むことで、支援が必要な人と出会い、さらに雇用やエシカル ※2な行動など社会的価値の創出につなげようというものです。
※2 エシカル:人や地球環境、社会、地域に思いやりのある考え方や行動
ファイザープログラムによって実現できたことや、よかった点を教えてください
助成金の使い方の自由度が高いことは大きなメリットでした。人件費にも使えるため、プロジェクト事務局の職員を雇用することができ、新しい仲間が増えました。またヤギを自分たちで飼うこともできたので、ヤギは私たちのマスコットのような存在となり、イベントも開きやすく、地域の子どもたちとの交流が広まりました。
何よりもコロナ禍でさまざまな活動が消極的になりがちだった3年間に、このプロジェクトがあったことで前向きに、積極的に活動できたことにとても意義があったと思います。まちなか保健室には薬剤師や看護師、保健師などのプロボノ ※3参加が増えるなど、新しい出会いも多く、さまざまな気づきや学びがありました。半年ごとに進捗報告をすることなどのプレッシャーもありましたが、きちんと活動を振り返ることで課題などが明らかになり、その後の活動に役立てることができたと思います。
※3 プロボノ:職業上のスキルや経験を活かして取り組む社会貢献活動
薬剤師 沖原 雄 さん:「まちなか保健室」をきっかけに活動に参加。薬剤師として地域でのつながりづくりに取り組む
助成終了後も、エシカルカフェをオープンするなど活動が続いていますね
コミュニティカフェは地域活動拠点として2022年内の開設を目指し、ソーシャルファームのイメージに近い民家などを探していたのですが、よい物件が見つからなかったのです。結局、大宮東図書館の併設スペースをさいたま市からプロポーザル方式 ※4で借り受け、「エシカルカフェ」として2023年5月から運営しています。雇用を生み出すことに加え、人や自然に優しいエシカルをテーマに、食材は地産地消、フェアトレードにこだわり、福祉施設で作られた雑貨の販売や、味噌作りのワークショップなども行っています。
もし、プロジェクトに取り組んでいなかったら、エシカルという発想ではなく、就労の場として普通の喫茶店を運営していたかもしれません。今後もソーシャルファームの新たなアイディアやビジョンの探究、多様な人たちとの対話を通じて、支援のニーズや制度の限界を明確にしながら地域課題を見出し、未来につながる取り組みとして展開したいと思っています。
※4 プロポーザル方式:複数の企業の中から最も優れた提案をした企業を契約の候補者として選定する企画競争入札方式
公益社団法人 やどかりの里
■ 1970年設立。精神障がいのある人たちが、地域の中で生き生きと暮らし、働くことを目的に、さいたま市を中心に相談支援や生活支援、就労支援、出版業務などに取り組む。
プロジェクト名と助成額
● 2020年(1年目)「見沼の文化とSDGsを意識した共同創造のソーシャルファームづくり-1」 助成額200万円
● 2021年(2年目)「見沼の文化とSDGsを意識した共同創造のソーシャルファームづくり-2」 助成額230万円
● 2022年(3年目)「見沼の文化とSDGsを意識した共同創造のソーシャルファームづくり-3」 助成額250万円