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発達障害の治療を通して見えてくる 社会のサポート体制の重要性

発達障害の治療を通して見えてくる 社会のサポート体制の重要性

くまもと発育クリニック 院長
岡田 稔久 さん

発達障害や小児糖尿病などの障害や慢性疾患を対象に、全国的にも珍しい発育に関する専門クリニックを7年前に開業した小児科医師の岡田稔久先生。社団法人 日本自閉症協会理事、自閉症児者を家族に持つ医師・歯科医師の会の副会長も務め、調査研究や講演活動にも積極的に取り組まれています。発達障害児を取り巻く現状や課題についてお話をお聞きしました。

くまもと発育クリニックの診療の特徴について教えてください

日々の診療では自閉症、高機能自閉症、アスペルガー症候群や注意欠陥多動性障害(ADHD)などの発達障害、さらに小児糖尿病やダウン症などの治療・療育相談を行っています。完全予約制で30分1枠単位、初診時や診断をお伝えする時は2枠ほど必要です。患者さんは主に熊本県内の方ですが、遠くは宮崎県から通う親子もいらっしゃいます。保護者の方、保健所などの行政機関や小中学校といった教育機関からの紹介など、いずれもクチコミで来られる方がほとんどです。

こういう業態のクリニックにしたのは、私の長男が自閉症であるということも関係していますが、小児科医になった早い段階から1型糖尿病などの内分泌代謝疾患に関わってきたことにあります。特に小児糖尿病サマーキャンプには、医師になった1年目から参加してきました。

発達障害の子どもたちの治療や相談での難しい点はどんなところですか

発達障害は先天的な脳の生物学的要因による障害です。知的な遅れを伴う場合がある自閉症、知的な遅れを伴わない高機能自閉症やアスペルガー症候群、ADHDなどがあります。社会性の困難さ、コミュニケーションの困難さ、こだわり行動や興味関心の偏りなど、それぞれに発達上の特性があります。

症状の組み合わせや程度は一人ひとり違い、同じ診断名でも様子が全く違う子どももいます。見た目には障害があるように見えない場合もあり、誤解を受けることがしばしばあります。特に重い知的障害を伴う場合と、全く伴わない場合などでは、療育や支援の方法が違ってきます。生涯にわたる特性であり、医療だけでなく教育、福祉など幅広い分野での理解とサポートが必要です。

「自閉症児者を家族に持つ医師・歯科医師の会(AFD)」について教えてください

2002年に自閉症児の父親である3人の医師が集まり発足しました。当時は自閉症の原因や治療についてさまざまな仮説が浮かんでは消えていく状態が続いていました。一般の人には判断できず、惑わされる人も多くいました。そこで自閉症児の家族である医師同士が話し合い、自閉症に関する新しい情報や自閉症児者が医療機関で上手に診療を受けるためのノウハウなどについて議論してきました。今はそれらを蓄積した情報を一般の人にもわかりやすい形でホームページなどで公開しています。現在、全国に200名を越える会員がおり、内科・外科を含めた多くの診療科の医師、歯科医師が参加しています。

講演会や調査研究、ヘルスケア関連団体ネットワーキングの会への参加など、幅広く活動されていますね

今は行政や教育現場にいる方々を対象とした講演を年20回くらい行っています。一時期は小中学校の校内研修も行っていました。先生方もいろいろな情報を得て子どもたちへの対応の仕方を学んでいます。けれども医学的な知識で対処するというイメージを持っている先生方もまだまだいます。医学知識の視点ではなく、子育て支援の視点が大切です。それを理解していただくために講演や、教育者向けのテキストの編集・監修などにも携わっています。

小児糖尿病のサマーキャンプに長く参加し感じていることですが、やはり患者・家族という当事者の活動は非常に大事なことです。医者もそこにもっとかかわるべきだと思い、ヘルスケア関連団体ネットワーキングの会での九州学習会や東京でのワークショップにも参加しました。疾患の違う方々が共通の課題について話し合ったり、連携し患者力をつけていくのはとても有効だと感じています。

2009年は、厚生労働省の障害者保健福祉推進事業で、難病・発達障害・高次脳機能障害の方々の効果的な就労に向けた調査研究事業に携わりました。大企業の障害者雇用について担当し、実際に東京の3つの企業を訪問しました。雇用したことによる社員の変化、雇用する側と雇用される側双方の情報不足、現場での支援の必要性、トップへの働きかけの重要性などが浮かび上がってきました。

支援者としての私の役割に、情報の提供があります。一番難しいのは、発達障害であれ難病であれ、その疾患について「知らない」ことだけではなく、「知っていても誤解している」ことがあるという問題です。目に見えない障害のわかりづらさ、そこから偏見や新たな誤解が生まれます。これは就労問題だけでなく、障害者が地域生活をする上でも共通の課題であり、今後も取り組んでいかなければならない課題だと思っています。

今後の抱負をお聞かせください

医院の名前を「岡田発育クリニック」ではなく、「くまもと発育クリニック」としたのは、私が倒れるまでやって、それでよかったではない、という思いがあるからです。跡を継いでくれる人が出てきてくれるのが願いです。けれども1日に診療できる患者数が限られ経営上は非常に厳しい状態です。県外からも複数、見学に来られましたがこれでは経営上、無理だと。週1日程度なら取り入れられるかなぁと、みなさんおっしゃいますね。

私は発達障害などの医学的な診断がついても、それは決してその人の人生を左右することではないと思っています。それゆえに社会での生き方が難しいのであれば、サポートできる人がかかわっていく。発達障害児者や難病の方々が将来的に自立していくためには、その支援体制の充実が不可欠です。家族や周囲の人はもちろん、行政は施策を考え、地域の方々もかかわり方を考えていく。企業の社会貢献活動が今後、日本にどう定着していくのかにも期待しています。

現状ではさまざまな限界を感じていますが、私も医師としてやりがいと情熱を持ってこれからも取り組んでいきたいと考えています。