患者団体とも連携して障害年金受給サポートに取り組む社会保険労務士
仙台駅前障害年金センター 代表 社会保険労務士
池田 清 さん
社会保険労務士とは、社会保険と労働保険に関して、行政機関に提出する書類などの作成や、相談、指導を行う専門職です。社会保険労務士である池田清さんは、社会保険の中でも病気や障がいのある人を対象とした障害年金に注目し、宮城県を中心に障害年金について講演や相談会を行ったり、申請手続きの支援や代行を実施したりしています。自らも難病患者であり、当事者の立場からも活動を行う池田清さんに、障害年金を取り巻く状況や患者団体とのかかわりをお聞きしました。
障害年金とは?
障害年金とは、事故や病気が原因で日常生活を送るのに何らかの支障がある人(原則20歳から65歳未満)に、国から年金が給付される制度で、老齢年金と同じ公的年金です。たとえば、うつ病や統合失調症などの精神障がいの人、交通事故や脳血管疾患などにより身体が不自由な人、ペースメーカーや人工関節・人工肛門などの手術を受けた人、人工透析を受けている人などが対象となります。障害年金には、国民年金の加入者を対象とした障害基礎年金、厚生年金・共済年金の加入者を対象とした障害厚生(共済)年金があります。障害年金給付に該当する病気や障がいに関して、最初に医師の診断を受けた初診日に、どの年金制度に加入していたかによって申請する年金が決まります。
まず、障害年金に携わることになった経緯を教えてください
私は大学卒業後、広告代理店に勤務し、中小企業の経営者と直接お会いする機会が多かったため、次第に中小企業を総合的にサポートするような仕事ができないかと考えるようになりました。そして社会保険労務士(以下、社労士)や行政書士の資格を取得し、社労士として独立して、いくつかの企業の労務顧問を務めていました。
そんな時に東日本大震災が起こり、得意先の企業も被災し、廃業に追い込まれた方や、震災をきっかけに精神障がいなどの病気を発症した方がたくさんいることを知りました。そこで、もっと直接的に個人を支援することはできないだろうか、社労士の私にできることはないだろうかと考え、注目したのが障害年金です。首都圏などでは障害年金のサポートを行う社労士が増えてきていたので、仙台でも支援ができるのではないかと考えたのです。また私自身、潰瘍性大腸炎の患者で、今は寛解状態ですが、当事者として病気や障がいのある人の事情や思いも理解でき、私ならば役に立てるのではないかという考えもありました。そこで、2013年3月に障害年金を専門に取り扱う仙台駅前障害年金センターを立ち上げました。
実際に障害年金に関してどのような活動を行っているのですか
障害年金は一般にあまり知られておらず、申請・受給している人が少ない制度です。そのため、制度の仕組みや手続きについて、年金事務所や市役所などの窓口の担当者、医療従事者も詳しく知らないということが珍しくありません。また、申請の際に必要な書類が多く、初診日の確定など手続きが複雑という特徴があります。医師の診断書が必要ですが、病歴が長く初診日から時間が経っていると、担当医が異動していたり、カルテが保存されていなかったりと、正確な診断書が得られないケースも多々あります。こうしたことから、受給できるはずの年金が受け取れなかったり、受給額が減ったりすることもあります。
そこで、私は社労士として専門的な立場から当事者やご家族の相談に乗り、病歴・就労状況等申立書の作成や、年金裁定請求手続きの代行を行っています。また障害年金に対する理解や周知の拡大を目的として、患者団体や仙台市障害者総合支援センターの主催するセミナーや、保険代理店の社内教育の場などで、講演会や勉強会を行っています。
患者団体やVHO-netにかかわることになったきっかけを教えてください。また、どのような気づきや成果がありましたか
当事者の方に、障害年金について知っていただくことが必要だと考え、センターを立ち上げてすぐにNPO法人 宮城県患者・家族団体連絡協議会(以下、MPC)に働きかけ、2013年6月に「難病と障害年金」をテーマに講演を行いました。その後、徐々にネットワークが広がって、MPCに加盟する団体のセミナーなどでも講演を依頼されるようになり、先日はヘルスケア関連団体ネットワーキングの会(以下、VHO-net)の東北学習会にも参加しました。また、社会福祉法人 宮城県障害者福祉センター主催のセンターまつりでは無料相談会を行っています。
こうしたヘルスケア関連団体と連携した活動を通して、障害年金を必要としている方は多いこと、身体障害者手帳を交付されていても障害年金については知らなかったり、手続きが大変だからと諦めたりしている方も多いこと、また障害年金という名称から“障がい者のための年金”というイメージがあり、難病や慢性疾患の患者も対象となることが知られていないこともわかりました。もっと正しい情報や知識を広めていかなければならないと痛感しています。
私は学生時代に病気になり、当初は病名もわからず、親にも相談することができずひとりで悩んでいました。その経験からも、当事者が自ら学ぶこと、相談相手がいること、適切な支援につなげることが必要だと思っています。より多くの当事者の方が正しい知識や情報を得られて、障害年金などの福祉制度を有効に活用できるように、患者団体のみなさんやVHO-netのようなネットワークと連携した活動も行っていきたいと思います。
今後、取り組みたい活動や目指すところを教えてください
当センターへは、東北各県からも問い合わせがあります。地方では障害年金に対する認識はまだまだ低いようですので、将来的には福島や岩手などにも拠点をつくり、各地域のみなさんが相談しやすいようにしていきたいと考えています。
また最近、うつ病などの精神疾患にかかる働き盛りの世代が増えていますが、精神疾患の患者さんも、本人が手続きを行うことが難しいケースが多いと思います。本来、雇用者である企業などが傷病手当金や障害年金を申請する手続きをサポートするべきですが、障害年金まではなかなかサポートできていないのが現状です。病気になっても安心して療養できる仕組みがあり、それが多くの人に知られていれば社会復帰もしやすく、社会にとってもプラスになるはずです。
年金財政の悪化から、国や自治体は、障害年金についてあまり積極的にアピールしてこなかったという経緯があります。しかし、最近は、セーフティネットとして障害年金を見直す動きもあり、私のもとへも行政から講演依頼が来るなど、行政の意識が変わってきたことも感じます。必要な方が障害年金を申請して給付を受け、経済的な援助を受けて治療に専念し、社会復帰を目指して、社会に還元するという仕組みがスムーズに機能していくようになればと思います。当事者の方だけでなく、行政や企業など、もっと広く社会に向けて、障害年金への理解と活用を訴えていきたいと考えています。
池田 清さん プロフィール
宮城県丸森町出身。広告代理店勤務を経て、社会保険労務士として独立。2013年に仙台駅前障害年金センター開設。行政書士、日商簿記2級、キャリア・コンサルタント等の資格も持つ。