看護指導やVHO-netでの活動を通じて、
看護学生に難病患者のことや
意思決定支援ができる看護を伝えていきたい
看護師として、循環器、消化器、呼吸器の内科病棟、リウマチ膠原病、糖尿病および小児科の混合病棟で11年間の勤務を経て、長崎県の活水女子大学看護学部での教員の道へ。看護する側から、看護をする人材育成へと転身した堀川新二さん。講師として、どのように学生たちと向き合っているのか。また、VHO-netでは九州学習会、ヘルスケア関連団体ワークショップにも積極的に参加し、その活動が大学でどのように活かされているかなどについて、お話を伺いました。
看護する側から、看護を教える側に立つことになった動機について教えてください
看護師になって10年目の頃、リウマチ膠原病の病棟に勤務していたときに、母校の長崎大学医療技術短期大学部(3年制 現・長崎大学医学部保健学科)の恩師が、同大学の大学院に来ないかと誘ってくださいました。今のうちにできることはないかと考えていたときでもあり、看護師を続けつつ大学院へ。リウマチ病患者のケアについての研究をしました。修了1年後に、今度は大学院でお世話になった教授から、活水女子大学看護学部の大学教員のお話をいただきました。看護師という資格をもちつつ、そのような職業の選択もあるのかと気持ちが動き、教員になることを決めました。
看護を学ぶ学生たちを教える教員になって、心境の変化などはありましたか
専門領域は成人看護学で、教員になっても、実習で病院の現場に触れる機会が多く、患者に対しての看護への視点が大きく変わったということはありません。学生が展開する看護過程の学習の中で、ともに患者のことを考え、看護させてもらっているという感覚。もちろんそこに学生への教育を担うという責任が加わります。方法論は教科書にありますが、日々、臨機応変に患者と向き合う看護の難しさ、これが正解という答えが出ない場合もあり、また、学生自身の考え方もあります。私の看護の仕方を押しつけないようにしつつ、学生たちは道に迷い、脱線もするので、誤解したままで覚えてしまわないよう、うまく軌道修正をしていく。日々、試行錯誤しています。
VHO-netでは九州学習会への参加、昨年のヘルスケア関連団体ワークショップでは進行役も務め、積極的にかかわっておられます
活水女子大学では、リウマチ膠原病病棟で働いていた経験から、慢性疾患に関する講義も担当していました。当時、同大学に勤務していた岩本利恵先生(現・福岡看護大学教授)に声掛けをしていただき、2015年から九州学習会に、ワークショップは17年から参加しています。とてもありがたい機会で、スケジュール調整をする価値があり、極力参加したいと思っています。余談ですが、看護師になった当初、加藤眞三先生(慶應義塾大学名誉教授)の04年の著作、『肝臓病生活指導テキスト(南江堂)』をフル活用していました。ワークショップでご本人にお会いできて感激し、一緒に写真を撮ってもらいました(笑)。
VHO-netはヘルスケア関連団体のリーダーの集まりなので、九州学習会の皆さんもとても積極的に意見交換をされます。団体をいかにより良く運営していくか、さまざまな活動の報告などを聞くと、とても前向きで、刺激があります。私が看護の現場にいたときは、そこまで患者団体に積極的にかかわっている患者さんに出会ったことがなかった。院内患者会はありましたが、企画運営は現場の看護師で、人が集まらないなどの声も聞いてはいました。それと比べて、VHO-netの患者団体はとても活発で、会員減少や資金調達などの課題にも果敢に取り組んでいます。他の疾患団体との横のつながり、患者団体の活動を広く伝えていく広報活動が大事だという気づきがありました。
昨年のワークショップ分科会のテーマの一つは、「患者の声を医療に活かす」でした。看護師も重要なポジションを担っていると思います
医療現場において、患者さんの思いをうまく医師に伝える役割を担うのが、看護師です。医師だけでなく、理学療法士、作業療法士のリハビリスタッフや薬剤師、退院支援でのソーシャルワーカーなどの間を取りもつのも看護師の仕事です。それは、現場で働いていたときも強く意識しており、今も学生に対してチーム医療での役割を伝えられるようにと指導しています。
VHO-netが掲げる「患者の声を医療に活かす」というテーマは、病院の中の看護師の立場というよりも、患者団体の皆さんの活動であり、普段、生活をしている中での課題を医療に伝えることだと思います。私の場合は、看護学生に難病患者さんのことを伝える機会をつくっていくことだと思っています。あるとき、担当していたゼミの学生がヘルプマークのことを知らず、そういうツールが必要な人がいるという話をしたら興味をもち、卒業研究で「長崎県での看護学生の認知に関する実態調査」を行いました。また、世界希少・難治性疾患の日(RDD)への学生ボランティアの呼び掛けが大学にあり、学生たちも積極的だったのですが、残念ながらコロナ禍で中止となりました。私の役割として、学生と患者さんたちが話せる機会の橋渡しとなり、学生のうちから難病患者や障がい者のことを知る機会をつくれるようにしていきたい。看護学生が知ることは、将来、医療者側に意見が伝わることにもなると考えています。
今後の抱負について、教えてください
研究テーマは、リウマチ患者の口腔ケアで、「関節リウマチ患者に向けた、口腔ケア介入モデルの構築と介入効果及び妥当性の検証」という研究に取り組み始めたところです。科学研究費の申請が下りたところでコロナ禍となり、まだこれからの段階なのですが。看護師時代から、口腔ケアはとても大事だと感じていました。リウマチ患者さんの中には歯ブラシでしっかりとブラッシングすることが難しい人もいます。口腔ケアを丁寧に行い歯周病予防することが治療に役立つという研究もされており、セルフケアの介入は大事だと思っています。
昨年のワークショップの岩本先生の講演※の中で、ヘルスリテラシーについて説明がありました。患者自身も正しく情報を得ての意思決定が大事だと。看護師の仕事の大きな役割の一つは、意思決定支援だと思っています。学生が陥りがちなのは、患者さんの背景を十分にアセスメントできないまま、「こういうことに注意してくださいね」と指導したくなってしまうこと。それよりも患者さんの理解度に応じて「ご自身で取り組まれるに当たって、工夫できそうなことはありますか?」と自ら行動を考えられるような声掛けが大切です。患者が自分でできるかどうかを問い、患者自身に決めてもらう。学んだ知識を伝えるだけではなく、患者が今、何に悩んでいるのか、それを支援するためにどういうことが必要なのかを、常に考えられる看護師を育成していきたいと考えています。
堀川 新二 さん プロフィール
2001年長崎大学医療技術短期大学部看護学科卒業。
02年医療法人白十字会(現:社会医療法人財団白十字会)
白十字病院、06年社会医療法人財団白十字会 佐世保中央病院勤務。看護師を続けながら12年長崎大学大学院医歯薬学総合研究科保健学専攻修士課程修了。13年4月より活水女子大学看護学部看護学科教員。15年の第22回九州学習会からVHO-netに参加。