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心の鍵を持っているのはクライエント
心の扉を開いてもらうためにソーシャルワーカーは技術を磨いています

心の鍵を持っているのはクライエント 心の扉を開いてもらうためにソーシャルワーカーは技術を磨いています

琉球大学病院<br>医療福祉支援センター<br>ソーシャルワーカー<br>石郷岡 美穂 さん 琉球大学病院
医療福祉支援センター
ソーシャルワーカー
石郷岡 美穂 さん
ソーシャルワーカーは、患者さんが医療機関に来たときから、患者・家族に寄り添い、その後の治療・療養生活で心理的、経済的、社会的な問題の相談に応じていく仕事です。一般の病院や施設では、医療ソーシャルワーカー(MSW)と呼ばれますが、ソーシャルワーカー(SW)とも呼称されています。受診や入退院にかかわる相談から、患者が地域で自立した生活を送れる支援まで、幅広くカバー。年間約2万人の新規患者が来院するという、琉球大学病院でソーシャルワーカーを勤める石郷岡美穂さんに、仕事の内容や心構えについてお話を伺いました。

 
 
ソーシャルワーカーになった経緯についてお聞かせください

沖縄国際大学で社会学を専攻し、社会福祉主事任用資格を取りました。新卒で就職した病院では、透析室の事務を約10年、異動して地域連携室の新規立ち上げに携わりました。退職後、前職時代にご縁があった琉球大学病院の医師のお声がけで、地域医療部に就職、同院の地域連携室立ち上げに携わりました。40代手前で社会福祉士の資格取得にチャレンジするために、日本福祉大学に編入し、卒業年度に合格。国家資格を得ることができました。

現在の職場環境と、業務の概要について教えてください

琉球大学病院は、特定機能病院の指定を受け、一般診療と、専門的・先進的な医療を提供する医療機関に位置づけられています。また、都道府県がん診療連携拠点病院、エイズ治療中核拠点病院、地域周産期母子医療センター、沖縄県難病診療連携拠点病院など、指定医療機関としての役割もあります。病床数は約600床、1日1000人前後の患者さんが外来受診する大規模な病院です。

私はそのなかで、医療福祉支援センターに所属しています。いわゆる病院の地域連携・入退院支援部門で、ソーシャルワーカーとして国家資格をもつ社会福祉士は5名が在籍しています。
琉球大学病院のソーシャルワーカーは複数の部署に在籍しており、私の配属先、医療福祉支援センターは『病院の顔』ともいえる地域医療連携業務を担っています。紹介患者さんの受診調整〈前方連携〉、病院利用者の相談〈患者サポート相談〉、入院予定が決まった患者さんの入院前から退院までの支援〈入退院支援〉、が大きな柱です。看護師、事務職員、社会福祉士が協力し合ってそれぞれの柱を支えています。その中で私は看護師長とともに現場のリーダーを務めています。

琉球大学病院のソーシャルワーカーの具体的な仕事内容について教えてください

〈前方連携〉の仕事は、紹介患者さんの初診予約調整や、救急受診、転院相談など地域からの多様な問い合わせに対応します。事務的な作業もあれば他部署との横断的な調整もあります。〈患者サポート相談〉では、ソーシャルワークの技術を使う相談と、医療メディエーターとして対応する相談を使い分けています。入院外来問わず、生活の相談、医療者とのコミュニケーションの悩み、医療安全相談、当院へのご意見などの初期対応に当たり、関係部署と連携しながら組織的に取り組む業務です。

〈入退院支援〉は看護師、薬剤師、管理栄養士など多くの職種が患者さんにかかわり、安全な医療、安心できる入院生活、医療資源の適正利用に努めています。入院が決まった患者さんは事前にオリエンテーションや各種問診を受けていただき、手術予定者には影響するような薬や口腔内の確認をします。医療費の不安などを早期にキャッチできるのもこの仕組みのメリットです。一方、退院支援は、元の暮らしに戻るのが困難な状況の患者さんに対して家族や社会資源の調整を行い、退院を支援します。

他にも〈医療チームの活動〉では、就職当初からHIV診療チームに参加し、PLWH(People Living With HIV=HIVとともに生きる人々)の個別支援や、中核拠点病院として研修機会の提供、患者向け冊子の執筆などに当たってきました。〈教育的活動〉では社会福祉士の資格取得を目指す学生を受け入れ、ソーシャルワーク実習を提供しています。割と多忙な部署ですが、健康的で楽しく働ける職場、助け合い、人が育つ環境づくりを目指しています。

いずれの業務も患者・家族との面談がまず基本にありますね。コミュニケーション力が重視されるのでは

患者・家族と、医療者、福祉、行政などとの溝を埋めていくのは難しい仕事ですが、そこに橋を架けること。それを得意とするのがソーシャルワーカーだと思っています。あるとき、武道をやっている人から、「自分の力で相手を倒すのではなく、相手の力を使って技をかける」というお話を聞きました。ソーシャルワーカーの仕事をしていて、その言葉はすごく腑に落ちました。別に私が何かをしてあげるのではなく、ただ励ますわけでもない。ソーシャルワーカーと相談者、互いのやり取りを通して、あなたが自分らしい人生を生き抜いてほしいという考えが根底にあります。そのために、目の前の相談者が何に困っているかを言語化したり、解決に用いる社会制度を理解されたか観察したりするなど、面接技術がとても大切になってきます。

相手が心を開いてくれること、心の鍵を持っているのはクライエントなので、それを私に渡してくれなければ心は開きません。鍵を渡してもらえるような関係性をつくること。それには時間は関係ないんです。面談のときに一瞬で感じ取ってもらえるような、そういう面接技術を磨いていくことが大切だと思っています。

今後の抱負について教えてください

2024年の今夏、私は患者体験をしました。これは神様からの贈り物だと思いました。病気に対する不安や疑問、患者はこういうふうに思うんだ、医師にはなかなか言えないこともあることなど。入院、手術を通して医療職をリスペクトする気持ちも高まりました。

もちろん、ソーシャルワークはそんな経験をしなくても行えるのですが、この経験は糧になると思いました。約1ヶ月、休職し、今まで自分がいかに不健全な生活をしてきたか、それをしみじみと感じました。復帰して今、やっていることは、職場から早く帰る練習です(笑)。つまり、自分を良い状態に整えておかないと、対面する患者さんや家族に、良いサービスが届けられない。疲れているときは要注意です。言葉や態度で相手を傷つけ、不快にさせます。また、ご縁をいただいたVHO-netの地域学習会のような、職場を離れた活動に参加をする気も起こらなくなってしまいます。健全な暮らしをするのが今の私の目標です。
もう一つ。ソーシャルワーカーの心構えとして、「患者さんにとっての非日常の世界で、私は日常を送っている」ということがあります。これは患者を体験して、本当にそうだと、より実感しました。患者さんは病院で非日常の世界を生きている。この言葉は当事者から教わったものですが、大学の保健学科の講義でも、学生たちにすごくインパクトがあるようです。そのことを心に留め、自分の立ち居振る舞いにも気をつけています。患者さんは、面談で出会い、私を見つめ、そこでの私の言葉がけによって、自分のことをこの人に話せるかどうか直感的に感じています。だからこそソーシャルワーカーの在りようがとても大事です。温かい目線を差し向けているか。そんなことを改めて自分に問いかけています。

石郷岡 美穂 さん プロフィール

東京都出身。1985年、沖縄国際大学入学。沖縄県へ移住。1989〜2002年、県内急性期病院勤務。在職中の2000年にアメリカのミネソタ州に短期留学。アントレプレナーシップ受講、病院実習。2004年より琉球大学病院勤務。2006年に日本福祉大学通信教育学部編入。2008年に社会福祉士取得。2024年、節目を迎え、これからの生き方を思案中。